事例:口をきかなくなったメンバーたち。険悪な雰囲気に包まれた職場(個人単位で踏み込まないで全体のフレームを作る方が良い例)|特別講座|総合心理教育研究所 東京セリエセンター:メンタルヘルス対策・ストレスマネジメント

佐藤隆の特別講座

事例:口をきかなくなったメンバーたち。険悪な雰囲気に包まれた職場(個人単位で踏み込まないで全体のフレームを作る方が良い例)

事例:口をきかなくなったメンバーたち。険悪な雰囲気に包まれた職場(個人単位で踏み込まないで全体のフレームを作る方が良い例)
企画デザイン会社A社の開発制作室は、かなり高学歴で特殊な技術力を有する社員で構成されていました。したがって職場のやる気がすぐにマンパワーに影響して業績に反映されます。常務取締役の高杉さんは、この職場の人間関係を重視し、特にHRMに力を入れ、採用、配置、育成、評価に努力をし、高い業績を上げてきました。
社員が増加するに従ってマネジャーも増やさなくてはなりません。しかし、同社の多くの社員は、特殊な分野のエキスパートで、人系のマメネジメントは苦手意識を持っている人ばかりでした。そこで開発制作室では中堅女性社員の米倉さん(40歳)を中途採用しました。もともと同じ仕事をしていた先輩社員も女性社員の坪井さん(28歳)でした。米倉さんはどちらかというと物静かで、地味ですが確実に仕事をこなしていくタイプでした。高杉さんは、良い人材の雇用に喜びました。
しかし、しばらくして、チームリーダーのベテラン技術者の青木課長が「うつ状態」「体調不良」でチームリーダーを辞めさせてほしいと言ってきたのです。理由を聴くと、同じ部屋にいる女性社員同士が口もきかず、挨拶もせず、業務指示も本来は二人でやるべきところを青木課長が中継しなければいけないということです。青木課長は、「常々二人からは相手の欠点を聴かされ、課長として適切な行動をとるように要求され、もう管理職として限界だ。専門の仕事だけさせてほしい」と訴えました。
高杉さんは、人事担当者とも相談をすべきかどうか、あるいは課長を医師に、2人の女性社員にカウンセリングを受けてもらうべきかどうか悩みました。人事部と打ち合わせをした結果、人材不足の折、介入していけばますます誹謗中傷のうずが巻き起こり、問題をさらに悪化させてしまう。職場でたとえ嫌なことがあっても協調し、お互い挨拶し、業務上必要なコミュニケーションは、社員の最低限の規律として履行してもらわなければならない、という考え方達しました。
高杉さんは、この問題の解決にあたり、個人的問題には触れず、①職場という「場」の問題、②課長と部下の問題、③部下同士の個人の相性やコミュニケーションの問題と3つ問題の分析として考えることにしました。そこで、メンタルヘルス専門家のアドバイスを仰ぎながら、①の問題に対してはメンタルヘルス研修会を開催しました。②の問題に対してはリーダーシップの改善指導を行いました。③の問題に対してはセルフケアとストレスマネジメントを提供しました。その結果、犬猿の仲の二人が並んでお弁当を食べ、仕事でも協力するようになりました。「課長も喜んでいます」という報告が入りました。

●解説:コンフリクト・マネジメントでミディエーションをする
疾病モデルでは個人の病理性を問題にします。しかし、本書が採用する適応モデル(*)では、組織集団の持つ行動規範や基準ということを中心に社員の行動変容を試みます。多くの企業でも同じですが、本ケースでは、一見二人の逸脱行動の裏面に「パーソナリティ障害」のような問題が隠されているように思えるのですが、職場のメンタルヘルスの人間関係は、まず、適応モデルで考えて、それでなおかつ問題があれば、個別的問題と考えるのが妥当です。言葉を変えれば、いきなり疾病モデルで異常行動と考えるのではなく、職場で個々人の「感情」をどう扱うかということを考えなければなりません。
適応モデルでは、社内で行動の基準が明確になってくると、それから逸脱した行動は、集団からの圧力で適正な行動に変容されると考えます。そのために、準備のための会議を開いたり、コンサルティングのために専門家や人事部や上司あるいは本人が話し合いをして進捗状況を管理します。文化や価値観が違う人が共に働いているのですから、対立や紛争は避けられないのです。本ケースでは、行動の基準がなかったことが問題であり、それゆえ、全体としてのフレームを作ることが重要なのです。

このような職場の人間関係のもつれや対立のために使われる管理職のエネルギーは極めて大です。生産性も下がります。適切なコンフリクト・マネジメント(ミディエーションとも言います(*))が必要です。
ミディエーションでは、まず、問題を同定し分析をします。本ケースでは「場」の問題があります。そして、リーダーとメンバーのコミュニケーション、さらには、メンバー同士のコミュニケーションにも問題があります。場の問題をどのようにとらえるか、リーダーシップをどうするか、メンバー同士のコミュニケーションをどのように回避するか、ということから考えて解決の糸口を見出していくのです。
仮にこの3人が受診をしたならば、課長は「うつ状態」、女性2人は「パーソナリティ障害」もしくは「適応障害」と診断される可能性が高かったでしょう。
本ケースでは、個別の人間にいきなり踏み込むのではなく、上記の問題を押さえ、行動基準を明示したことで、各人がより高い適応状態になったのです。

*)適応モデル:メンタル不調の原因をストレスに求め、ストレスにうまく適応できているかを重要なポイントとするモデル。このモデルでは、日常のリーダーシップ行動の中で部下を勇気づけたり、相談にのったり、職務のサポートをしたりすることでストレス反応を軽減することを重視します。

*)ミディエーション:職場内などの人間関係のいさかいやもつれなどを円満に解決するためのスキルのことです。管理職がこのようないざこざに費やす時間が多くなれば生産性が低下することになります。なるべく早す円満に解決する必要があります。コンフリクトには3タイプあります。①プラスとプラス(どちらを選択しても良い状態に落ち着く)、②プラスとマイナス(どちらかをとれば片一方がマイナスになる)、③マイナスとマイナス(どちらを選択してもい結果は出ない)。良き解決は、ウィン-ウィンになるようにプラスの結論に変えていくことです。

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